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◎男は何をしなければいけないか

●まずはじめに


 パートナー・彼女の不慮の妊娠に際して、これまでこのページでは、「男性として何ができるか」ということを考えてきました。しかし、それが「してもしなくてもよい」というような意味でとらえられてしまったとすれば、制作者としては非常に心外です。その意味で、「男は何をしなければいけないか」にタイトルを変更しました。

 内容的にはさほどの変化はありませんが、これは「男性としてしなくてはならないこと」であることを強調したいです。

 もしそれをきちんとしないのであれば、男性は「セックスを買った男」よりも悪いなにか、おそらくはレイプする男と変わらない何かになりさがってしまうと痛感します。たとえ、パートナー・彼女がそれを許したとしても。


 不慮の妊娠に際して、よく「責任をとる」という言葉を耳にしますが、実際にはその責任の中身は明確ではありません。

 責任とは、妊娠中絶の費用を払うことなのか?

 それとも、結婚することなのか?

 それともそれ以上に必要なことが何かあるのか?


 もし責任が金銭だけを意味するとすれば、それは結局、セックスの代価としてお金を払うと言っているようなものです。お金を払って解決しようとすることで、彼女のパートナーあるいは彼氏であったはずのあなたの存在意義は、「彼女のセックスを買った男」にまでなりさがってしまうでしょう。

 実際に、中絶を期にカップルが別れてしまう場合、その理由は、本質的なところで男性がセックスを買った男になりさがってしまったことにあることが多いのではないでしょうか。


 結婚が解決になるかどうかは、その結婚の中身によって大きくちがいがあります。

 双方が結婚を希望しているかどうか。

 結婚して子供を持つことが希望されているかどうか。

 経済・社会的に可能かどうか。

 このすべてが満たされるのであれば、結婚によって「責任をとる」ということは成り立つでしょう。でも、これを満たしてしまうようなカップルであれば、そもそもこんなページを見ることもないかもしれません。

 逆に、条件のどれかが満たされていない場合−どちらかが結婚したくなかったり、どちらかが子供を持ちたくなかったり、経済的に成り立たないような場合−には、結婚が解決になるとは言えないでしょう。

 また、すでに結婚している人にとっては、結婚による解決はさらに困難な、別の人の犠牲を要するものになります。

 経済・社会的に結婚が成り立つかどうかについては、判断が微妙な部分があります。学生同士でも結婚して子供を持つことができる人もいれば、職に就いていても結婚できないと判断される人もいます。これについては、別項でもう少し検討したいと思います。


 さて、金銭によってでもなく、また結婚によってでもなく、男性が自分の責任を果たすとはいったいどういうことになるでしょうか。特に、結果的に中絶を選択した場合、男性にはどういう責任の果たし方があるのか。

 そのかたちは最終的にはケースバイケースで、それぞれの環境や希望によって異なる部分が多いとは思いますが、ここではひとまず、自分自身の経験と、掲示板への書き込みから学んだことを書いてみようと思います。


 必要なことは大きくわけて二つあります。

 ひとつは、具体的な行動。妊娠がわかってから比較的安全な中絶が可能な期間は限られており、産むにせよ産まないにせよ、その間にどうするかを決め、それに合わせて行動する必要があります。そのときもたもたしていることは、「責任をとる」上では許されないことだと思います。

 もうひとつは、避妊・妊娠・中絶について知り、理解・共感することです。これなしには、女性を強引に中絶あるいは出産に追い立てることはできても、いたわり、いたみを共有することは不可能です。産むか産まないかという選択の場に女性を置き去りにすることも最悪の行為ですが、女性の気持ちや状況を理解することなしにどちらかを選ばせてしまう(はいと言わせてしまう)のも、決してよい結果を生む行為ではありません。よりよい行動の背景には、よりよい理解が不可欠です。


●具体的な行動

不慮の妊娠に際して−話し合うスキル


 生理が来ない、妊娠しているかも知れない、物事はおそらくそんな言葉から始まることでしょう。あるいは、セックスしていて突然コンドームが破れていることに気づくとか、避妊を怠ったことから物事は始まっているのかも知れません。多くの男性にとって、そのように言われてもあまり実感は湧きません。生理や妊娠についての知識がないからです。生理早く来るといいね、妊娠してないといいけど、そんな言葉が関の山でしょう。

 そんなときにどうすればいいのか、といった質問が掲示板では相次いでいます。具体的にはまず、妊娠しているかどうかを確認し、産婦人科医にかかる、そしてどうするかを話し合うということになります。


 ここで問題にしたいのは、「話し合うこと」です。しばしば、「よく話し合って」というアドバイスが書かれるのですが、具体的にどのように話せばいいのかについては明らかではないように思います。特に、日ごろきちんと話し合うことがあまりない人たちの場合、話し合っているつもりでも、ちゃんと話せていなかったり、声が大きい方の意見が押し通されるだけだったり、解決に至らなかったりすることもあるのではないでしょうか。

 話し合うことの目的は、ひとつは「産むか産まないか」の選択を共有することであり、もうひとつは現在の気持ちや不安を分かち合うことです。多くの女性は、産むか産まないかの選択をしなければならないとき、即座にどうしたいかの答えを出すことはできないだろうと思います。また、気持ちや不安も、どう感じるのかと聞かれて、一言で言い表せるようなものではないでしょう。

 「話し合う」時に、男性がこうあるべき/ありたい条件は、次のようにまとめることができると思います。

・冷静であり、感情的にならないこと
・彼女・パートナーの言葉をできるだけ聞くこと
・自分はどうしたいかについてなるべくはっきりした意見を持ち、それがなぜかを説明でき、しかも状況に応じて譲歩できる余地を持つこと


 いずれも当たり前のようですが、難しいことです。

 冷静であるべきなのは当たり前ですが、場合によっては、彼女・パートナーのことを思うあまり男性の方が取り乱してしまう場合もあるようです。また、彼女の混乱に巻き込まれて自分も混乱してしまうことも、できるだけ抑制したいことです。彼女を慮ったり、気持ちに共感したりすることは必要なことですが、身体の負担がない男性の側がより冷静になる努力をすべきです。特に、女性が精神的に不安定である場合、それに振り回されたり、怒ったりせず、辛抱強くそれにつき合う覚悟が必要であると思います。


 次に、女性の言葉をできるだけ聞くと言うことですが、これにもいくつかのポイントがあります。よほどそのことについていつも考えていない限り、こんな時にどうしたいのか、自分がどう感じているのかを言葉にして語ることは困難なことですから、ただ話そうと言ってもなかなか言葉にならないのではないでしょうか。そのようなときに、言葉が出てこないことにじれたり、言葉になって出てくることだけを取り上げたりするのではなく、言葉になって出てこない何かをできるだけ探り出す・汲み取るような姿勢で聞くことが必要になってくると思います。この時には、自分の意見を差しはさむことはできるだけ抑え、また時間がかかることも覚悟するべきだと思います。また、人によっては男性の立場や希望を重んじるあまり、自分の気持ちを重視しなかったり、きちんと主張しないこともあると思うのですが、それに甘えて話し合うことをいいかげんにしてしまうと、後々いい結果につながらないかも知れません。


 自分の気持ちを抑えて冷静になること、女性の気持ちを時間をかけて汲み取ることなど、いずれも精神的には大きな作業になると思いますが、気持ちを分かち合う上では必要な作業だと思います。また、自分のパートナーを女性が得てしておかれてしまう弱い立場に追いやらないためにも重要なことだと思います。ここで人間としてのキャパシティが試されるのだと言うこともできるでしょう。


 最後に、自分としてはどうしたいのかを、理由も含めてきちんと説明できるようにしておくことが大切です。しばしば、最終的には中絶したいという意志を暗黙のうちに示しながら「あなたの思ったとおりにしていい」と言う男性のやり方に失望したという女性の意見が掲示板に書き込まれます。自分の意志を暗黙に示して責任を回避するのではなく、自分がどうしたいと考えているか、責任ある発言をすることが要求されるようになるかもしれません。また、考えた上での発言でも、筋道の通った理由がなければ利己的な発言との区別がつかないので、きちんと説明できるようにするべきです。
 そして、もし女性がそれを希望するのであれば、産むことについても真剣に検討すべきです。真剣な検討を欠き、産むか産まないかで合意しないまま結局中絶してしまったことで、女性の側に大きな怒りと不満が残されているケースは少なくありません。


中絶することになったら


 仮に、自分たちが中絶することを選択したとしたら、いくつかするべきことがあります。

 もし女性が立ち会いや病院での待機を望んでいるなら、可能な限りそれに応じるべきです。また、手術が終わればそれでおしまいというわけでないので、手術後の身体的・精神的なケアができるように心の準備をしておくことが重要だと思います。特に、人によっては喪失感やつらい気持ちが突然戻ってくる、いわゆるフラッシュバックを経験する場合もあり、えてして自分がが忘れてしまうよりもはるかに長く、精神的な影響は尾を引きがちです。


よけいなお世話?


 人間関係によっては、女性が男性の助けをむしろ不快に感じたり、それ以外の理由で受け入れられなかったりすることもあり得るでしょう。男性がきちんと責任を果たそうとしていればいるほど、それはつらいことですが、もし女性がそれを望んでいないのであれば、残念ながら男性にはそれ以上踏み込むことはできないと思います。特に、男性と女性の間で産むか産まないかについて意見の相違があり、それが埋められない場合などには、そういうことがあり得るかも知れません。

 そのような場合にできる残されたことは、一歩引いた場所で待機して、必要があればいつでも協力できることを示しつづけることだと思います。

 当事者でない男性や女性の助けについても、同じことが言えるかも知れません。


●考えるべきこと

避妊について

−知るべきこと


 避妊について、最低限どうしても知っておかなければおかなければいけないことは、セックスする以上、避妊に協力することは男性の義務であること、それを怠ることは一種の暴力であるということです。

 また、くれぐれも再確認すべきことは、膣外射精は避妊にならないということです。また、いわゆるオギノ式の「安全日」をあてにする方法も失敗の危険を大きく伴います。

 思いこみや行き違いによるミスをなくすためにも、「原則としてセックスにはコンドーム」であると認識した方が間違いはないかも知れません。また、コンドームは射精の前だけでなく、挿入する最初から最後までつけなければ意味がありません。

 避妊の失敗は、直後72時間以内であれば、緊急避妊ピルの使用によって回避することができることも知っておくとよいでしょう。(詳細)ただし、女性の身体に負担がかかりますので、そう何度も使用できるものではありません。


 避妊については、くわしくは以下のリンクを参照してください。


−理解・共感すべきこと


 掲示板への書き込みを見ていてわかることは、いかに多くの女性が毎月、生理が遅れるだけで妊娠しているのではないかと不安になっているかということです。人によっては、そのことを男性に告げないことも多いと思われるので、男性が知っているよりもはるかに頻繁に、その不安は共有されていると考えていいでしょう。

 男性にとって女性の妊娠は社会的・経済的な不安ですが、女性にとっては身体的な不安です。ゆえに、その不安は身近であり、逃れがたいものであるということを男性は少なくとも理解しておくべきです。


 また、セックスの際に、相手を気持ちよくするために危険を冒してしまう女性がいたり、そうでなくとも男性に強く要求されたとき、NOと言えない女性がたくさんいるということから考えて、避妊をいいかげんにするよう女性に要求したりすべきではありません。また、女性がそれを容認したとしても、男性自身が避妊をいいかげんにしないよう心がけるべきです。避妊をいいかげんにすることを、セックスを受け入れてもらうことや、セックスの時に自分の希望をかなえてもらえることと混同すべきではありません。

妊娠について

−知るべきこと

 妊娠検査薬の使い方についてはここを参照してください。

 月の数え方についてはここを参照してください。

 排卵出血についてはここを参照してください。


−理解・共感すべきこと


 多くの女性が妊娠したことが気持ちに及ぼす影響について語っています。

 妊娠して間もない時期に、身体の中に赤ちゃんがいることを強く感じたと述べている女性は少なくありません。それが単純に生物学的なものか、それとも文化的なものでもあるのかは明確ではありませんが、大切なことは女性がそれをしばしば「身体で」感じている一方、男性はそれを直接には感じることがないということです。

 子供嫌いの女性、赤ちゃんを持ちたくないと感じている女性でも、無意識のうちにおなかをかばってしまっていたり、産めないとわかっているにもかかわらず、子供ができたことに喜びを感じたりといったことがしばしば語られています。また、当然の帰結として、体内の生命である赤ちゃんを守りたいという気持ちを強く感じると多くの女性が語っています。

 一方、女性がそれを身体的な、当たり前のこととして感じるために、男性がそれに共感できなかったり、赤ちゃんの存在を感じていないことに対して、不満を感じるという書き込みも少なくありません。これは、男性と女性の感覚にギャップがあることのほかに、女性にとってあまりにもその感覚が当然のことに思われるために、男性に対して詳細に説明しない傾向があったり、逆に男性が女性の状態に注意を払わないでいたりするためであるかもしれません。

 男性にその感覚が直接感じられないとしても、言葉で聞いて理解したり、それとなく気にかけることで共感できることは多いと思います。このギャップを無視せず、埋めるための努力を払うことは、相互の理解のために非常に重要なことではないかと思います。


中絶について

−知るべきこと

 中絶手術がどのようなものであり、それに対してどのような準備が必要であるかについてはここを参照してください。

−理解・共感すべきこと


 中絶手術がどのような体験であるかについては、人によって異なります。

 初期中絶に限っても、麻酔が覚めたら終わっていた、という人もいれば、悪い夢・不快感にうなされたり、嘔吐したり、麻酔の効きが悪く、非常な痛みを感じたというケースも耳にします。中期中絶になると、さらに手術は大がかりなものになります。

 手術後しばらく出血が続いたり、手術後の生理が遅れたり(一般的には一ヶ月から二ヶ月)など、女性は身体的な不調を体験することが多い一方、精神的にも罪悪感や喪失感を感じることも少なくありません。

 また、男性が中絶のことを忘れてしまいがちであることに比べ、女性は長くフラッシュバックやつらい記憶を抱えて生活することが多くなります。その際に、男性がそれを終わったこととして片付けがちであったり、共感を欠くことは女性にとってはつらいことです。自分がそれを忘れがちであることを意識して接する必要があると言えるでしょう。

 また、中絶体験を女性が自分の人生の中にどのように位置づけていくかも人によって様々です。お寺などで供養したいと考える人も多いようですし、中絶体験について他の人と話し合ったり、体験記を書くなど、多様な位置づけがあり得ます。そのようなことに対し、冷淡であるよりは共感できた方がよりよいことは当然です。

 中絶手術後のセックスについても注意が必要です。手術後のセックスに痛みが伴ったり、精神的に受け入れられない女性もいます。また、中絶後にセックスを求められることを不快に感じたり、それを理解してもらえていないことの端的な表れとして感じたりする女性も少なくありません。また、病院で中絶後のセックスは二週間は避けるようにと言われることが多いようですが、この時期に排卵が重なるケースも少なくなく、きちんとした避妊が必要です。中絶後すぐの妊娠ともなると、女性の精神的な苦痛は著しく大きいものになるため、そのようなことは絶対に避けるべきです。