◎はじめに−もう一歩前へ
◎このページについて−過去と現在
◎私たちにできることは何か?
◎プロチョイスとプロライフ
◎いろいろな人たち−掲示板から
◎男がしなければならないこと
◎セックス・妊娠・中絶と社会
◎未成年の中絶について
◎産むという選択
◎中絶の物語を語ること

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◎はじめに−もう一歩前へ

 あちらこちらで繰り返しになるかも知れませんが、このページ「かなしいこと」は、1998年にスタートしました。はじめ単なる体験記ページであった「かなしいこと」は、99年に始めた掲示板に多くの書き込みが集まるようになり、コミュニティとして機能するようになったように思います。
 それ以来ずっと、掲示板がうまく機能することを第一に考えたということもあるのですが、何よりも自分の怠慢から、自分の意見について積極的に表明することをしないできました。

 掲示板が助け合いと相互理解の場になっていれば、それ以上にできることは何もない、自分が必要以上にしゃしゃり出るよりはきちんと番犬の役割を果たしている方がいい、と感じていたのですが、自分にとってそう思っていた時期はひとまず終わったように思います。


 きっかけはいくつかありました。

 ひとつは、掲示板に書き込まれるさまざまな意見を見ているうちに、自分の中で考えが変わったり、深まったと感じるようになったこと。

 ひとつは、掲示板で何となくまとまっている考えと、体験記に書かれている考えの間にずれがあり、たまに体験記に対する意見ではないかと思われる書き込みが、掲示板の中でちぐはぐな状態になっているのではないかと発見したこと。

 それから、同じく中絶を扱ったページの中に、「このページは慰め合いの場などではなく、もっと前向きのページだ」と書いてあるのを見て、ちょっと心動かされたこと。

 しかし、最大のきっかけになったのは、ある体験談の中で、「妊娠して、出産を希望している彼女に中絶ページを紹介して、話し合いもせず責任逃れをした男性がいる」という話を目にしたことです。

 逆上に近い怒りを覚えました。

 
 私たちが作ったページが男の責任逃れのために悪用されている。
 

 もう今のままでいていい時期は終わったのだな、と思いました。



 掲示板を作り、(主として女性による)コミュニケーションの場を維持してきたのは、中絶の問題を女性に押しつけたり、女性同士の間で解決させるためではないです。

 「男にできることは何か」を問題にしてきたのは、自分が何ができるかを考えた経験に発するからであって、「やりたい人がやればいい」というような軽い考えを提示しているわけではないです。

 中絶の是非の問題について踏み込まないできたのは、中絶を選ばざるを得ない人を責めることは悪であると考えたから、また既成のプロライフの論調に反対だからであって、中絶の問題を隠蔽したり、人の痛みから目をそらすためではないです。


 しばしば自分が感じるのは、妊娠や中絶の問題に関して、若い世代が上の世代から何のサポートも得られないでいるのではないか、ということです。

 学校では、セックスそのものに直面することが嫌われ、まともな性教育がなされていないかのように見えます。

 掲示板を見ても、参加者は10代からせいぜい30代後半までで、ついこの間中絶を体験した人々どうしが、急ごしらえで助け合っている状態です。

 医療の現場においては、お医者さんによって言うことがまるで違ったり、中絶する女性を傷つけるようなことを言ったりするという話を耳にします。

 家族の中においても、しばしば親の体面の問題が一番の理由で中絶したというケースを多く目にするし、不慮の妊娠や中絶に際して親から十分なサポートを得られたというケースよりは、動転した親に子供が振り回されたり、そのことを親に言えるような人間関係が維持されていなかったり、といったケースのほうがずっと多く見られます。

 これはこれで深刻な問題ではあるのですが、今ここで言いたいのは、では自分たちで何とかしなければいけないのではないか、そして自分たちが何か役に立つことをしているだろうか、ということです。


 掲示板からは非常に多くのことを学びました。また、依然として助け合いの機能は私たちにとって重要なものであるし、これからもそれをずっと維持していくことに何ら変わりはありません。

 ただ、もう助け合いの場を維持していくだけの時期は、自分にとっては終わったと感じています。私たちはもう一歩前へ進むときが来ています。