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◎いろいろな人たち−掲示板から


 気がつくと掲示板への書き込みも10000件を超え、その中で本当にたくさんの人々の体験が語られてきました。管理者である自分自身にとっても、掲示板への書き込みを見ることが最もいろいろな問題の理解に役立ったと感じている一方、この問題について少しでも理解したいと考える人たちに対しては、掲示板の過去ログに目を通すことをおすすめしています。ただ、量的にも膨大であり、なかなか全体を通して見てもらえないこともあり、曲がりなりにもまとめたものがあった方がよいかも知れないと思うようになりました。

 掲示板に書き込まれたケースの中にどのようなものがあったか、すべてをフォローすることはなかなか困難なので、ここでは大まかな傾向について書いてみたいと思います。この掲示板への書き込みが妊娠・中絶に関する考えを代表していると考えていいかどうかは疑問ですが、少なくともまとまった量の書き込みがある一掲示板についてのまとめとしてご覧ください。

 できる範囲での妥当性を持ったまとめを作るよう心がけましたが、行き届かない点も多数あると思います。まとめ方に異論等ありましたら、メールにてお知らせいただければ幸いです。

【女性の書き込み】

 全体の90%以上を占めているかと思われます。それぞれの項目について、明らかに書かれていない書き込みも多く、それは除いてあります。そのうち、純粋に質問や相談に回答しているものを除き、質問や相談、体験について書かれたものについて、以下のように分類してみます。

●年齢

 ほとんどの書き込みが10代後半から30代後半までの方々で、10代-20代が一番多く、その中では均等に広がっているように思われます。

●職業

 高校生、大学生から、就職されている方、主婦の方など、多様です。結婚されていない方のほうが多いですが、結婚されている方の書き込みもあります。

●内容

○妊娠しているかもしれないことについての相談

 この種の相談はかなり頻繁です。生理の遅れに対する不安や、妊娠の徴候についての質問、妊娠しているかどうか調べるためにはどうしたらいいかという相談などが主です。しばしば同じ内容の質問が繰り返されます。また、(回答していただける方が掲示板にいることもあり)生理不順や婦人科系の質問も時おりあるほか、避妊についての質問もしばしばあります。また、避妊に失敗したかも知れないという不安も多いのですが、緊急避妊ピルについて知らない方も多く、時間的に間に合っていないこともあります。

 この種の相談の多さは、(男性が想像もつかないほど)多くの女性が、非常に頻繁に、妊娠してしまったのではないかという不安を抱えていることを示していると言えると思います。また、多くの女性に婦人科的な知識が欠けがちであること、そしてそれに輪をかけて男性にはその知識が欠けていること、女性にその知識が欠けていることを男性が分かっていないこと、男性が女性の身体についての知識を持つことに関心が薄いこと、また、しばしば男性が間違った知識を女性に押しつけていることも読みとれます。

○妊娠していることについての相談

 非常に頻繁です。妊娠していることが分かって混乱している方、産むか産まないかの選択を迫られている方、中絶を選ばざるを得ない方などの書き込みがあります。いずれのケースでも不安や精神的な苦痛が訴えられることが多いです。

 また、中絶手術や病院についての具体的な質問もしばしばあります。中絶すると不妊になってしまうのではないかという不安も多いようです。

 「産めない」「産むかどうか迷っている」ケースの多くは結婚していない方ですが、結婚していてもそのような問題があることは少なくないようです。

 精神的な苦痛を引き起こしている理由としては、「赤ちゃんを殺さなければならない」こと、男性が冷淡・非協力的であることや苦痛を理解しないこと、両親など家族に中絶を強要されていること、また周囲に対して相談できないことや周囲が無神経であることなどがあるようです。

○自身の中絶体験についてのコメント

 過去に中絶を体験した方によるコメントも少なくありません。その多くはフラッシュバックや長く続く悲しみ、また中絶をめぐる人間関係によって引き起こされた問題、そしてそれらにどう対処してきたかについて、それぞれの体験が書かれたものです。

 中絶の選択に対して、つらくとも他にどうしようもなく仕方のないことだったと受け止められている方もある一方、その選択を後悔し、産むという選択肢があったのではないかと考えたり、周囲の意見を受け入れて中絶したが、そうすべきではなかったかも知れないと考える方も多いようです。

 精神的な苦痛がより耐えがたいものになってしまうケースの背景には、しばしば男性の無理解や無責任な行動があるほか、家族や周囲との軋轢がある場合もあるようです。また、中絶の体験がきっかけとなって周囲との人間関係がひどく悪化してしまうというような体験も見られます。また、中絶を体験された方にとって、家族や友人など周囲の人の結婚や出産あるいは子供を見かけるといったことがつらい気持ちを呼び覚ますといった体験は広く見られるようです。

 また、中絶を複数回体験されているという方も少なくなく、人によってはそのことが精神的な苦痛を複雑なものにしていることもあります。

●その他のポイント

○相手である男性

 当事者である男性は、彼氏や夫であるほか、他に家庭を持っている男性であることもしばしばあります。未婚のカップルの場合、女性がいま産むことはできないと判断するケースもありますが、男性との間で産むかどうかで意見が異なり、深く悩まれる方も少なくありません。既婚の方の相談は数は少ないですが、これ以上子供を育てられるかといった不安があるケースや、パートナー以外との間で妊娠してしまったというケースも見られます。また、男性が他に家庭を持っているカップルの場合、妊娠・中絶という体験を通して、関係そのものが問題になってしまうこともあるようです。

 責任を持って行動し、問題を理解することで女性の信頼を得ている男性もいる一方、冷淡であったり、非協力的な男性も多いようです。また、時には「産んで育てよう」と言っていた男性が態度を変えることで中絶をやむなくされたケースも見られます。

 中絶や妊娠したかもしれない体験に際し、きちんと対応することで男性との信頼が深められるといったケースも見られますが、決定的な不信を生むような行動を男性が取ったという書き込みも非常に多いです。

 また、女性の側からしばしば、男性が理解していない、中絶の体験を女性が抱えているのに男性は忘れてしまっている、または中絶体験の苦痛は男性にはわからないのだといった書き込みがなされており、男性との意識のギャップも問題になっているようです。

○供養

 しばしば、亡くなった赤ちゃんへの供養についてどのようにすればいいかという質問やそれに関する体験が書き込まれています。何らかのかたちで供養をしたいと考える方は多く、Web上での供養や実際にお寺へ行っての供養、それ以外でも何かを赤ちゃんのためにするなど、その人によって方法は様々ですが、供養をしたいと思われる方は多いようです。また、亡くなった赤ちゃんへの思いもさまざまで、再び同じ子供が宿ることを祈っている方もいれば、そうではないと感じられている方もいます。一方、「赤ちゃんは母親が幸せになることを望んでいる」と考えられている方は多く、供養というかたちを取っていても、必ずしも旧来の水子供養観が広く受け入れられているというわけではないようです。当事者である男性にも供養に関わってほしいと考える方や、それに対して理解が得られないという体験も見られます。一方、供養するという寺社での不快な体験なども書かれています。

○母性観

 同じように妊娠・中絶を体験された方でも、母性をめぐっての考え方は多様です。

 自らの体験を通して自分の中にある「母性」を強く意識し、次は絶対に産みたいと考えられる方や、自らの「母性」をとても大切にとらえている方は多いです。そのような方にとって、自己の中に「母性」を見いだすことは中絶の体験を受け止める上で非常に重要な役割を持っているように感じます。

 一方で、女性の価値は子供を生むことだけにあるわけではない、と考え、そのような母性を自分に押しつけられることには抵抗を感じているという書き込みもあります。

○告げるかどうか

 時に問題になるのは、自分の中絶の体験を周囲の人々である友人、家族、そして特に新しいパートナーに告げるべきかどうかということです。これについてはいろいろな意見があります。

 そのような事実を知らせることで現在の関係が壊れることはよくないと考えたり、知らされてうれしいことではないのだからあえて知らせる必要はないと考えるなど、告げることに否定的な考えの方は少なくありません。また、その体験は自分一人で背負うものであり、他者やパートナーに話すことで逃げるべきではないといった意見もあります。

 一方で、パートナーには過去の体験を受け入れてほしいという意見、それを受け止められない男性はパートナーとして不適格であるという考え方など、告げるべきであるという意見の方も多いです。また、将来的に結婚を考える上で、隠していてはいけないと考える方もあります。

 これは最終的には人間関係の問題であり、結論が出ることはないのですが、男性からも知らせてほしい・知らせてほしくないという両方の意見が出ていたり、中絶体験を話したことで理解が深まったという体験、逆に男性が動揺してしまい気まずくなった体験など、さまざまな書き込みが見られました。

○周囲の人の妊娠

 当事者以外の方でも、友人や姉妹、娘などの方の妊娠・中絶について書き込みされることもあります。また、彼氏や夫が別の女性を妊娠させてしまったという問題についての相談もあります。

【男性の書き込み】

 掲示板への男性による書き込みは少数派ですが、絶対量としては決して少なくないと思われます。また、真摯な書き込みも少なくないと言えます。


 男性による書き込みの中で最大のものは、妊娠させてしまった、あるいは妊娠させてしまったかもしれないという自体についての相談です。具体的に、妊娠しているかどうか知るにはどうすればいいか、彼女の生理が遅れているがどうしたらいいのか、中絶を選択せざるを得ないが病院にはどうやってかかればいいかといったことを質問する書き込みがあるほか、妊娠してしまった彼女に対しどう接すればいいか、自分にできることは何かといった質問もあります。また、産むかどうかの選択を迫られていたり、できれば産んでほしいと考えている男性の書き込みも見られます。

 このような相談は、中絶の問題に対して誠実な態度であると捉えられ、中絶を体験した女性からも比較的好意的な反応が返ってくることが多いようですが、あまりに男性があせっているために落ち着くようにと叱咤する書き込みも見受けられます。掲示板に書き込みされる男性は事態を深刻に受け止めていることも少なくなく、即効的なアドバイスを強く求める書き込みもしばしばありました。

 他に、彼女や友人が中絶の体験で苦しんでいることについてどうすればよいか、彼女や友人の過去の中絶について聞き、動揺しているがどうすればよいかといった相談や、自分が中絶させてしまった体験についての書き込みも見られました。また、パートナーと共同で掲示板に書き込むことで、相互の理解への姿勢を確認するような書き込みもあります。

【相談への回答】

 掲示板を定期的に見て、相談や質問に答えていただいている方は少なくないと思います。長期的に関わっていただいている方も多いです。

 具体的な質問については、しばしば繰り返しになるような問題についても、答えを書いていただける方があり、管理者にとって大きな助けになっています。また、メンタルな問題や中絶体験を綴った書き込みに対しても応答していただいており、相互的な助けとして機能しているのではないかと考えています。

【統計との比較】

 厚生白書によれば、1955年以来、妊娠中絶の件数は一貫して減ってきています。また、中絶を経験する女性の割合も減少傾向にあります。一方、20歳未満の女性の中絶については、件数も中絶を経験する割合も増えています。また、中絶手術件数全体に占める20歳未満の女性の割合も増えています。一方、30歳から44歳までの女性の中絶は減少してはいるものの、依然として中絶件数の半分を占めています。

 ここから、かつては20代後半から30代の女性が中心であった妊娠中絶が、現在では20代前半が中心になっていて、未成年の中絶が増えていること(成年であるといつわることも可能であることを考えると、実際にはもっと多いのかも知れません)、にもかかわらず、既婚者の中絶がいまも半分近くを占めている、といったことなどが読みとれます。

 掲示板への書き込みは比較的若い人々が中心ですが、ネットへの接続チャンスが比較的若い世代に偏っているとしても、それほど大きな偏りではないと思われます。